義村一仁追悼特集

「アクセシビリティ」岡山モデルの提案書

2018.09.03

義 村 一 仁
広島大学文学研究科博士課程前期

はじめに  

 「アクセシビリティ」とは、元々「利用し易さ」や「便利さ」を意味する概念であったが、現在ではあらゆるニーズを持つ人々、とりわけ障がい者や高齢者など特別なニーズを持つ人々がどの程度利用できるか、という意味合いとなっている。

 高齢化やグローバル化によって人々のニーズが多様化してきている現代社会において、アクセシビリティの考慮はあらゆる場面で必要不可欠なものとなっている。

 特に高等教育機関におけるアクセシビリティの充実化は、早急に取り組むべき課題であると思われる。

 以下にその理由を示すと共に、具体的な取り組みの方法を提案する。

1 高等教育機関における就学支援拠点の必要性

 障がいを抱える学生にも一般の学生と同様に良質な学びの機会を提供する必要がある。各都道府県の特別支援学校で学習できるのは高等学校の範囲までであり、そこから先を学ぶ際には個別に大学等を探すこととなる。この時、志望大学を選択する重要なポイントとなるのが、大学側に障がいのある学生を受け入れる体制がどの程度整っているかという点である。

 障がいのある学生の多くは受験や受講に際して特別な配慮(視覚障がい者は試験問題や使用するテキストの点字訳、聴覚障がい者は講義で話された内容を書きとめる人、など)を必要とするため、過去に自分と同じ障がい者を受け入れたことがあり、ある程度のノウハウを知ってくれている所の方が、格段に学びやすいのである。

 しかし残念ながら、そのような体制が整っている大学等は多くない。たとえ過去に障がい者を受け入れたことのある所でも、本当に充実した支援はなかなか望めないのが現状である。その原因は、現在行われている支援が多くの場合学生本人と担当教員との個別の話し合いによって実施されている点にある。

 この方法では、支援技術や必要な設備を準備するのが難しく、支援を行う人員確保にも手間がかかる。各教員も障がい者支援については未経験な場合が多く、細部までの配慮は困難である。加えて、個別対応という性質上、培ったノウハウを後の事例に活かしにくいという大きな難点もある。

 これらの問題は、就学支援の拠点となる機関を大学内に設け、支援に必要な知識と技術を持ったスタッフをそこに配置することで解決に向かわせることができる。現在その分野において日本で最先端といわれている広島大学のアクセシビリティセンター(以下「センター」と略記)は、これを実現している。ここには障がい学生の支援に必要な機器が揃っており、数名のセンター職員が常駐しているので、必要な時に支援を依頼することができる。

 一方で、このセンターは、アクセシビリティに精通し、様々なニーズを持つ人々を支援する技術を持つ人材「アクセシビリティリーダー」(以降「AL」と略記)を育成するプログラムを実施する所でもある。このプログラムは、特定の講義を履修し、支援技術の実習を決められた時間数行うことでAL認定試験を受験することができ、合格すれば広島大学学長からALの資格を与えられるというものである。ALになれば、インターンシップ生としてセンターから仕事を割り振られたり、ティーチングアシスタント(TA)としてセンターの仕事を手伝うことができる。障がい学生が持ち込んだ依頼の対応は、センター職員の他、TAやインターンシップ生が協力して行い、更にはAL育成プログラムを受講している学生たちの実習の一環にもなっているため、確実且つ迅速な対応が可能である。

 このように、広島大学のアクセシビリティセンターは、就学支援の本部であると同時に、支援技術を持つ人員を育成するという役割も果たす理想的な機関といえる。私は支援を受ける側と支援する側(TA)の両面からこのセンターに深く関わり、「アクセシビリティ」について様々な角度から学んでいる。テキストやレジュメを点字や電子データ(データ化すればパソコンに取り込んで読むことができるため)に変えてもらう必要がある私にとって、センターの支援は就学上不可欠なものである。このように恵まれた環境を、少しでも多くの機関に広め、障がいを持った学生が円滑に学べる機会を少しでも増やしたいと考えずにはいられない。

 そこで、まずはそれを故郷岡山で実現させたい。広島大学の支援方法を参考にし、更に発展させたものを岡山モデルとして作り上げたい。

2 岡山モデル(学・産・官連携)の提案

 岡山モデルとして、私は、学・産・官連携型のアクセシビリティセンターを提案したい。計画は以下の通りである。

 まず、センター創設は、県内の複数の大学で実施する必要があると考えられる。というのも、大学によって受験や就学の難易度が異なるためである。国・公・私立を問わず、偏差値の異なる複数の大学(2.3校)にセンターを設ければ、自分に適した大学が選択可能となる。各センターでは、前述した広島大学の方法を参考に、障がいのある学生の修学支援、およびアクセシビリティリーダーの育成を行う。各センター間で円滑な連携を実現することで有用な技術を共有し、支援の質向上を目指す。そのために、センターのうち一つを本部とする。本部は、専門の教員・教科の充実等から、福祉系の大学に置くのが最適と思われる。

 次に、産業界との連携について記す。この連携によって期待できるのは、各企業の「障がい者法定雇用率」達成の促進である。法定雇用率の達成が難しい理由の一つとして、企業側が障がい者受け入れのノウハウを十分に持っていないことが挙げられる。どのような仕事がどこまでできるものなのか、どのように雇用すればよいのか、といった問題に答えが出なければ、雇用の二の足を踏むことに繋がってしまう。しかし、センターと連携すれば、この問題の払拭が望める。各企業からセンターに相談できるようにし、センターが企業にアドバイスを行う。更に、場合によってはAL認定者をアドバイザーとして派遣することも可能である。企業は、それにより法定雇用率が達成されれば、社会的責任を果たすことができる。一方、障がい者側から見れば、就労の可能性が高まる。また、ALの学生も地元の企業と関わる機会を得ることができる。学・産の双方にとって、この連携は有意義なものとなる。

 最後に、ここまで記述してきた大学間および学産間の連携に県が加わり、学・産・官の連携となることで、この取組はより意義を増す。センターの創設とその運営に県が加わることで福祉政策の一つとなり、他県には例を見ない岡山県モデルとなり得る。

3 岡山モデル実現に向けて

 ここまで障がい者教育の支援に的を絞って記述してきたが、アクセシビリティを考慮してケアする対象は障がい者だけではない。高齢者や怪我をした人、その他特殊なニーズを持つ人々を適切にサポートすることにより、全ての人にとって暮らしやすい社会のプランニングを目指すのである。社会の原点ともいえる教育の現場でアクセシビリティの配慮がなされることは、より住み易い社会の実現へ向けた第一歩である。その第一歩を、岡山の学・産・官が連携して踏み出せば、岡山のアクセシビリティモデルは全国の規範となるだろう。

 前述のモデルを実現してゆくには、準備室を立ち上げ、場所(本部)や予算、人員配置の具体的な課題を一つずつクリアしてゆくことが必要である。準備室は、室長、実務担当者、事務担当者で構成することになる。

 私は、広島大学のアクセシビリティセンターに2008年から現在まで、6年間関わって培った技術と、支援する側とされる側双方の立場での経験を活かし、岡山モデルを準備段階から推進する一人となりたい。

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